妖怪や幽霊による傷害事件が多発する現代では人を害する「人ならざるもの」たちを取り締まる人たちがいた。それは警察ではない。彼らは「祓穢衆(ふつえしゅう)」と名乗りその多くが山などに隠れ住み、人ならざるものと対話する事が出来た。
彼らは人ではないものによる事件や事故を収束させるために行動し、民間人の避難や区画の封鎖などで警察と協力する事もあった。祓穢衆と警察官、両者とも「民間人の被害を抑える事」を第一としているが、事態の解決方法の違いなどで現場で衝突してむしろ民間人への被害が増える事があった。そのような状況があり対応を求められた政府は祓穢衆の活動、警察との協力の制限などを法律で定めた。「大型霊的障害対策法」通称「対霊法」である。この法律によって祓穢衆が法律の範疇(はんちゅう)を越えた捜査や行動を行わない事を取り決めた。
対霊法によって祓穢衆は「霊的障害対策組織」「大型霊的障害対策組織」のいずれかになる義務が発生した。いずれも警察に準ずる公安組織として活動していた。
しかしその「対霊法」が発布されたのは五十年以上前である。それまで得体が知れないと言われていた祓穢衆への理解も進み、締め付けのあった法律も改正された。この法改正を機に法人化し更に大きくなったもの、規模を小さくし市井に根差した活動をするもの、実力があるため組織に入らずフリーランスで働く者など多くの変化があった。
霊的障害対策組織、通称「対霊組織」の中でも有名な組織があった。
関東を拠点としている「霊泉組合」だ。所属人数は七百人以上と対霊組織の中では最大の規模を誇っている。関東奥地にある山に根差し中々降りてこないが、猟師と狩りを行ったり農家の害獣駆除などに尽力し、施設自体が温泉施設の様になっている事もあり開放的な雰囲気で近隣住民からは人気のある組織だ。
外ではこんこんと雪が降る年の瀬の組合本部の中では、しっかりのりの効いたスーツをくしゃくしゃにして談話室で倒れている職員が多数見受けられた。彼らの目の下には隈がはっきりあり、中にはうわごとのように「年末万歳」と呟いている人もいた。
本部である建物の一部は旅館の様になっており、彼らのいる談話室の中も普段であればくつろげるスペースだったが、集まる人みな地獄を見た顔をして絨毯の上で横になっており、新たな地獄を生み出していた。幸い奇声を上げる者も嘔吐や自傷行為に走る者がいないため常に忙殺されている医療チームが出動する必要はなかったが、その代わりにアニマルセラピーチームが出動していた。
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