「道路上で霊的災害発生のため、竪郎(じゅろう)駅周辺の道路は一時通行止めとなります! 迂回路をご利用ください」
騒々しい夜の都会の駅前で複数人の警官がライトを振っている。その表情は困惑しており、本人たちも状況を把握していないようだった。
出くわした人たちが野次馬をしようとしていたが、警官の後ろに不思議な黒い布が掛けられていたため道路の様子は分からなかった。
「あの、何があったんですか」
警官の一人に仕事帰りのサラリーマンが話しかける。
「霊的災害が発生しました。危険ですので安全な迂回路を通って帰宅なさってください」
「いえ、その霊的災害とは一体」
恥を忍んでサラリーマンが聞くと警官は僅かに目を見開いて、軽く咳ばらいした。
「簡潔に言いますと、突然幽霊のようなものが人を襲って事件に発展したものを霊的災害と言います。」
「幽霊のようなもの?」
「……あまり大きな声では言えませんが、私も見たことがないので何とも」
サラリーマンの疑問に警察が申し訳なさそうにしていると、黒い布が内側からぺらりとめくられる。中から真っ白なスーツを着た女性が現れた。
「すみません」と女性は言った。「通行人の誘導ありがとうございます。わたくし、霊泉組合の和田本です。少しお願いがありまして現場指揮はどなたでしょうか」
彼女の肩までの黒髪がふわりと夜風で揺れる。和田本という二十代半ばの女性はサラリーマンの方をちらりと見たが、通行人だと分かると警官の方に意識を向けた。
和田本は警官の目線を追ってこの通行止めを指揮している人物を察すると、ありがとうと言って現場指揮官の方へ歩いていった。
「すみませんっすみません! 通してください!」
駅前の喧騒の中から小さい女の子の声がする。人混みを押しのけながらどんどん近づいてくる。
ぷはっと人の陰から顔を出した彼女は、小学生の女の子だった。肩までのこげ茶の髪色に吸い込まれるような飴色の瞳の少女は目の周りを真っ赤にして、周りを見回した。そして警官の姿に気が付くと、その姿を全て陰から出して近づいてきた。
「おまわりさん、すみません、霊泉組合の者なんですけど、通ってもいいですか」
少女はそう言いながら背負っていたランドセルから印籠を取り出した。
一人の少女が夜の街を走る。パトカーのランプがあちこちで点灯しており、その街一番の大通りは一切の車も人も通ることはできなかった。少女はその大通りを警官の誘導の元駆け抜けていった。
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